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―― アート、NFT作品などのシェアプラットフォーム「STRAYM」のシステムに関してはどう思いますか?
鈴木哲也 自分が好きになった作品が、これから価値が上がっていくっていうことをウオッチしていくシステムですよね。例えば、競馬でも成績が良い悪い関係なく、自分が好きな馬にかける人っているじゃない。ロマンを追いかけて。そういうふうにそのアーティストや作品を応援することに少しお金を使ってみるって楽しいんじゃないかな。
山本宇一 もともとヨーロッパとかでは絵描きにパトロンがいたりするわけだからね。そういう人たちがお金を出して絵描きの生活を支えて、彼らは絵を描くことができたり。そういうのに近いのかなとか。日本でパトロンっていうとなんだか響き悪いけど、ヨーロッパでは歴としたポジションを持っているからね。音楽家だってオペラなんかは、ちゃんとパトロンがついていたわけだからさ。だけど例えばさっきの馬の話でいうとさ、いくらパトロンが馬にかけたとしても、勝たない馬は勝たないんだよね。だからそういう意味では、アートはアートで純粋に進化していくべきものでないと。
鈴木哲也 パトロンっていうか、アートがお金持ちのステイタスというのは日本でも昔からあるでしょう。ギャラリーのオーナーになってみたりとか。それがちょっとした名誉みたいなこともあるんじゃない。で、オペラのパトロンを今の日本に置き換えればアイドルのファンクラブ会員ですよ。そうやって、何万人という人たちが一人のアイドルのパトロンになるわけじゃないですか。もっとも、アイドルのファンクラブに入っていても、名誉やステイタスは手に入らない気がするけど。
―― そこでですが、NFTをどう思いますか?
鈴木哲也 NFTというシステムありきだから、価値のつけられ方がね。単純にネット上、デジタル上でないと存在できないでしょ。
長崎幹広(STRAYM) デジタル上のものですけど、今はそれだけでは通用しないので、現物をNFT化して権利が移行されたらその現物を渡すとか、そんな動きもあります。また映像でもオープンシーなどのマーケットプレイスですとミント出来るデータの容量がまだまだ低かったりして、それを誰かが購入したときに、かなり大きな解像度の高いデータを渡すことなども実際して行われていたりします。
鈴木哲也 そうするとNFTが、ギャランティになるよっていうことですよね。
山本宇一 アートっていうタイトルがついている中で、そこ(NFT)に集まる人と、壁に飾ってあるファインアートに集まる人と、いろんなグループができてくると思うんだけどな。そうするとそこに集まってくる人と、ここの人は被るのか、別の人なのか。
長崎幹広(STRAYM) 現状は被らない人の方が多いでしょうね。一方で最近ではクリスティーズもサザビーズもオープンシーなどと提携して、オークションでNFT作品も落札され始めていて同じマーケットに入ってきています。現代アートと、NFTアートという括りは出来ていますが、宇一さんがおっしゃっている、もともと「買う人が違う」というのは、その通りだと思います。
鈴木哲也 まず、NFTって言葉の響きが新しいというか新鮮だというのはあるよね(笑)。ブロックチェーンの技術に未来を感じたり、格好良さを感じる人たちがいるのもわかる。NFTが今後どうなるかはわからないけれど、仮に廃れたとしても、この「今」って時代を象徴するアイコンにはなりそうだよね。わかりやすく言えば、AIR MAX95みたいに。だからどんなNFTもいいわけじゃなくて、いかにもこの時代のNFTアートってものがいいかもね。現行のDAYTONAも今は異常なブームだけど、もし、このあと値段が下がったとしても、何年かして振り返ったときに、「あのとき、ROLEXが超バブルだったんだよ」っていう歴史の証拠になるでしょ。そういうふうに時代の思い出になるものをアーカイブしておきたいというのはわかるかな。
―― テクノロジーが進化した今の時代に生まれた新しいアートのスタイルにベッド(賭け)するという感じですね。
鈴木哲也 少なくとも、僕らはアーティストやクリエイターになるには、センスと技術がまず必要だと考えてると思うんですよ。でも、これからクリエ―ションを目指すためには、コンピューターテクノロジーに対してのリテラシーも必要になるというか。絵の上手い下手とかはひとまずおいて、それこそNFTやブロックチェーンの理屈を理解しなければいけないとか、そういうところでハードルが上がった気がする。
山本宇一 だけど僕はやっぱりロマンチストだから、ロマンチストだと1点しかない絵とかさ、触れるとか部屋に飾れるとかっていうのが重要になる。だからNFTが自然になって、そっちへどんどん持っていかれて残ったものをまた見つめたいとかね。このアートとしての上がり具合というか、どんどん上がっていったところでまた面白そうなものを掘るみたいな。やっぱりアートってみんなが知ってるからいいっていうのもあるけど、自分しか知らないからいいっていう価値とかもあるし、そういうロマンチックな要素が必ず残っていくはずなので。そういうところに身を寄せてる方が自分とアートの距離はいいのかも。
鈴木哲也 21世紀に入って、人々の価値観がますます多様になっていって、それが更に複雑になっていこうとしているけど、アートに関しても価値のレイヤーが増えすぎていて、その多様性や複雑さにアート自体がどう耐えてくのかって話になってくのかもね。
山本宇一 でもきっとアートって、時代が大きく変わるときに価値観が変わると思うから。マルセル・デュシャンの「レディ・メイド」とか、ポップアートが出てきたときにガラッとアートの価値が変わったけど、そうやって時代と共に変わっていくものなんだと思うよ。変わったものは同じアートと呼んでもいいし、違う名前になってもいいし。
鈴木哲也 それを考えると近代とはなんだって話になって、その答えで、今後のすべてが決定される気もする。もちろん、政治や経済、社会全体のことだけど。仮にこのあと、西欧由来の近代文明は全部間違いだったなんて話になったら、モダンアートも現代アートも全部価値がなくりますよ。「悪の近代文明に洗脳された人類は、便器を崇拝するほど愚かであった」とか言われたりしてね(笑)。逆に言えばデュシャンを観て「すごい!」って言うには、近現代の哲学や思想とそこから派生する美術のコンテクスト、ストーリーを高度に理解していることが本当は必要なわけでしょう。
山本宇一 そう考えると近代とはなにかってこともそうだし、この人間の感性というか、昔そこに感動してたものは、今は何に感動するんだとかね。
鈴木哲也 その人間の感性っていうのがどれだけ普遍的なものなのか、人間にとって普遍的な美というのが本当にあるのかということですよね。例えば、デジタルネイティブとかいうけど、これからの世代は音楽を聴いて「生楽器の音ってなんか気持ち悪いね」なんて思うのかもしれない(笑)。それに、もうすぐ僕たちはメタバースでアバターになるわけでしょ(笑)。そうなるとまたリアリティの意味が変わってくるし。
長崎幹広(STRAYM) なんかすごい変わってきましたよね。デュシャンが出てきたときは、現代アートに変わっていくときのターニングポイントとしては凄い意味があったと思うんですけど、今は意味付けよりかは、構造だったりとか手段だったりとか、特にNFTとかはそっちのほうに寄ってきてるなって気はしますね。
鈴木哲也 プラットフォームですよね。ソフトよりハード、コンテンツよりもプラットフォームみたいな。それと、今はアートの価値も多数決で決まっちゃうところがありませんか? で、多数決で価値が決まるものは、すべてエンターテイメントってことでいいんじゃないかとも思う。ただ、それを逆手に取るというか、エンターティナーとして道化を演じながらも、自分の衝動みたいなものを隠し持ちながら、ポップなエンタメ作品として自分の思想や哲学を表現する人はいるでしょうね。村上隆さんは、それを実践しているのだと僕は信じてます。
長崎幹広(STRAYM) 最後に「STRAYM」について、今後どのような展開を期待したいなって思っていますか?いろんな人に絵を知ってもらったり、手にしてもらって、アートの世界が広がれば嬉しいなと創業時に願ってサービスを始めたんですけど。
鈴木哲也 僕はさっきも言ったけど、共同保有というのは「あなたのファンですよ」っていう気持ちを表すファンクラブ感覚に近いと思うので、アーティストをサポートするっていう感じで考えたら、すごくいいんじゃないかなと思う。若いアーティストの作品の共同保有者たちが集まって、みんなでアーティストと話ができる機会とか、そういうのもやってみたりしたら凄くいいんじゃないかなと僕は思います。
山本宇一 絵って展示会で観れても、買われていくと一生観れないんだよね。だから僕が五木田くんの作品をLAとかに観に行ったりするのは、誰かの手に渡ってしまったら、そこで観ないと一生観れなくなってしまうからなんだけど。でも「STRAYM」みたいにみんなで持つことによって、いつでもその作品を観ることができる機会が生まれることは貴重ですよね。
―― 作品は売れてしまったら一般的には観れなくなりますもんね。
山本宇一 描いて手に渡った瞬間にもう観れなくなるって、描いた本人も言ってる。それこそいろんなとこから所蔵集めてやるような展覧会でもない限り、一度手離れた絵は観れないから。
鈴木哲也 でも今は人気の作家が大きな展覧会やるときは、コレクターが自分が持っている作品を使ってくれって言うらしいよ。それが実績になって値段が上がるから。なんでオレのは使わないんだ、って文句いう人もいそうだよね(笑)。それに比べたら「STRAYM」は、この人才能ありそうだなとか、趣味合うなって人を応援してくみたいな形を実現できるし、そういうのがいいよね。
山本宇一 あと現代的に言うと、自分がいいと思ったものの価値や人気が上がってく、ベット(賭け)したものが人気が上がってくとか、価値が上がってくとかスリルがあるよね。自分の見る目が合ってたなとかね。そういう意味ではイベントとしても楽しい。
鈴木哲也 そういう意味では本当にエンターテイメント。「STRAYM」とはアーティストのリアル育成ゲームですっていう(笑)。僕は、専門的なことはわからないけど、やっぱりアートの世界って、優しさが少ない世界だと思うんですよ(笑)。
山本宇一 これはもうサークルの中の人ですら言ってるけど、やっぱり美術サークルとかの中は居心地が悪いし、空気が悪いし性格も悪いみたいな。それはなんの世界でもそうだと思うけど、古い体制っていうか、古い体質の社会って居心地が悪くなってくからね。だから新しい人が入ってったりとか、自分たちができないスタイルが生まれるっていうのは、ある種痛快だよね。
Profile
山本宇一 Uichi Yamamoto
1963年生まれ、東京都出身。 空間プロデューサー。都市計画、地域開発などのプランニングに携わった後、飲食業に転身。 1997年にオーナー兼プロデューサーとして駒沢に「BOWERY KITCHEN」、2000年に表参道「LOTUS」、2013年に駒沢「PRETTY THINGS」などカフェをオープン。2000年代の東京カフェブームの立役者として知られている。またニューヨーク発の高級食材店「DEAN&DELUCA」の海外初出店の総合プロデュースや、ロンドンで最も有名な百貨店「Harrods」の世界初となるラウンジ「Harrods Brompton」などのプロデュースも担当するなど多義に渡り活躍中。
鈴木哲也 Tetsuya Suzuki
1969年生まれ。クリエイティブディレクター、編集者。株式会社アップリンク、株式会社宝島社を経て、2005年に株式会社ハニカム設立に参加。同時に同社の運営するwebメディア『honeyee.com』の編集長に就任し、2011年には『.fatale』もスタート。2017年に株式会社ハニカム代表取締役並びに、webメディア『honeyee.com』編集長を退任。現在は企業、ブランドのコンサルティングやクリエイティブディレクションなどの分野で活躍中。