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―― 作品がどのような流通を辿っているのか、来歴を記録することが可能ということですね。
施井泰平 そうです。誰かの恣意的な判断などに関係なく事実だけが書き込まれます。ついでに最近よく言われているNFTとは何かというと。そもそも僕らが提供しているブロックチェーン証明書そのものが技術的にはNFTに該当します。
―― では、Aという作品があったとして……。
施井泰平 2021年4月にAという作品にブロックチェーン証明書を発行したとします。その情報と作品を紐付けるためのICタグも合わせて付与されて、スマホなどをかざすだけで情報が閲覧できるようになります。Aが売買されたら、証明書もちゃんと新しい所有者に移行されて、その来歴も残る。僕らはこれまで絵画や彫刻のような作品に特化してサービス提供していたんですが、先日デジタル作品への発行対応も開始しました。今話題になっているNFTアートとは、所有者であることの証明を実現するという点で似ていますが、僕らが提供する仕組みはサービスを横断した流通まで管理できるようになっているんです。最終的には作品のに関する全ての履歴を管理できるシステムです。その証明書に作品の流通や利用に関する規約も入れられます。例えば、還元金の設定をしておけば、どこで取引されてもちゃんと還元金がいくようになる。
―― 作品がアーティストの手元から離れてから、あちらこちらで作品が使われてしまったら著作権もなにもないですものね。
施井泰平 そうなんです。証明書を発行するときに、還元金を欲しいとか、ある一定のサービスや場所では流通させて欲しくないとか、自分でルールを決めることができます。
―― アーティスト自身が自分の作品の流通をトラッキングしたり事前に管理できるということですね。
施井泰平 その通りです。例えば、作品の所有者が、作品の画像を展覧会のDMや、Tシャツにプリントしたいという場合も、その使用許可に関して自動で制御できる。Tシャツが作られる度にその版権利用料が請求できるとか。本人だけじゃなくて、関係するIP保持者にも分配することもできるようになる。
―― 還元金のパーセンテージは、アーティストさん決められるんですか。
施井泰平 僕らの仕組みではそうです。僕らは、二次流通のことを特に意識してやってきました。昨今のNFTアートに絡めて言うと、僕らはそれが発行された後にの流通をどのように管理できるかということを考えていて、みんなより少し先の視点でやっていたので、これからのインフラとして普及させていきたいです。
―― NFTによりデジタルアートの動きに安心感がでますね。
施井泰平 昔からブロックチェーンがアートと相性が良いとは言われてきていて、2018年の『美術手帖オンライン』の記事でも、ブロックチェーンの活用方法のひとつとして、デジタルアートの所有者であることの証明を挙げていたんです。デジタルアートって複製が簡単にできるから、なかなか値段が付きにくい。数万円が関の山で、億単位にはならなかった。その理由として自分が所有者であると主張できないところがあったんです。でもNFT化すると、新たに「私は、この出どころが記された希少なデジタル作品を持っている」と証明することができるんです。
―― となると、デジタルアートが今後さらにアート作品として賑わう可能性がでてきますね。中でも映像作品が人気がでてきそうな気がします。
施井泰平 まさに今のNFTのマーケットプレイスでは、15秒ぐらいの短い動画が主流になっています。今後の展開としては、動画と映画との違いはなんだとか、産業との違いが議論されるようになると思います。例えば映画とプロモーションビデオなど、いろんな種類の映像がありますが、それぞれ売買の方式も違えば法律も違う。映画作品として扱うか絵画作品の延長として扱うかで著作権の扱いも変わってくる。映像というフォーマットはまったく一緒なので、これは文脈の問題なんですよね。だからこれからアーティストに問われていくのは、作品をどういう風に扱われたいか、自分でオプトインで登録していくこと。「これはアートだからTシャツにはしないで欲しい」とか、「映像作品だからこういうところで使った場合は、いくら還元してください」みたいなこともできるようになるんですよ。
―― 少しずつ理解ができてきました。スタートバーンの仕組みが普及することで、日本人のアートに対する意識が変わるかもしれないなと思いました。
施井泰平 なぜ日本でアートが普及しづらいんだろうか考えていたことがあります。その理由のひとつとして、当事者性の低さがあると思っているんです。日本では美術大学へ行くと、身近ではコミケなどで盛り上がってるのに、学問としては西洋の美術史を学ぶ。それがアートだと言われても、身近じゃないので、そこに当事者意識はない。 ビープルの作品が75億円で落札されてニュースになりました。デジタルアートが高額で売れただけで、何故こんなニュースになったかと言うと、デジタルアートで75億円も払う人がいるということ以外にも、いろいろな話がこの出来事によって語られるからだと思うんです。今までのアートセオリーとは全然違うような作品が、クリスティーズで売買されたこともそうですし、既存の著名アーティストがようやく辿り着けたような価格に、これまで誰も知らなかったアーティストがデジタルアートで辿り着いているわけじゃないですか。一方で、クリスティーズという250年間続くオークションハウスのセールだったからこそその価値が担保されていたということもあって。
―― それまで存在していた美術の歴史みたいな中での認められるという、文脈ということですよね。
施井泰平 オークションハウスと美術史とは必ずしも一致するわけではないけど価値付けという観点では大きなエコシステムを創る上でなくてはならない存在ですからね。アートって、議論が起これば起こるほど、アートとして現在性があって、かつ後世に残るような側面があります。今回のビープルに関して言えば、セールは100ドルから開始だったということから期待値はあまり高くなかったと思うんです。通常であれば、どれくらいで落札されるかのエスティメーションを出すんですけど、今回は不明と出していたんです。デイセールと言って、比較的値段が低い作品が出品されるようなオークションで出ていたから、何十億を超えるとは誰も想定していなかった。それとビープル自身もNFTのことを知ったのはオークションの半年前で、5000日間連続で毎日絵を描いて、SNSで発表してたクリエーターなんです。日を追うごとにだんだんと上手くなっていって、使うツールも増えてきて、今の作風になってきた。それでもオークションに出るまではなんの変哲もないインターネット上での人気者クリエーターだったんですよ。
―― 日本のアート界では、NFTに注目している人たちの割合はどれくらいでしょうか。
施井泰平 興味がある人たちは、今は多分1割ぐらいですかね。ただ僕らの証明書も技術的にはNFTだし、NFTアートもNFTという点で、区切りは難しいですね。最終的にはリアルボーンであっても、デジタルボーンであっても同じような管理の仕方になってくるんじゃないかなと思いますね。 リアルボーンの作品に関しては、今年の春に報道された贋作流通問題をきっかけに、画廊や百貨店が僕らの仕組みに関心を持ってくれるようになりました。コレクターも信用性や安心感を求めているんだと思います。 そのムーブメントがあった翌月ぐらいにNFTのブームがきまして、デジタル作品の管理についてもブロックチェーンへの注目が集まってきました。 今年のアートフェア東京で出展されていたようなギャラリーでも僕らのサービスを使われていたり、この普及自体は、どんどん広がっていくんじゃないかなと思います。
―― これまでのお話を聞いていると、最終的に目指すところはアートをいい形で、世の中に長く残していこうっていうことなのかなと思いました。
施井泰平 アーティストの思いが残ることが、それが1番重要なことですよね。アーカイブもだし、アーティストが1番最初に作った作品やその情報が継承させていくのが1番軸にあります。加えて、やっぱりコレクターやギャラリストの活動を支えることが出来るものでなければインフラとして成り立たないと思っているので、全ての人たちが喜ぶエコシステムを目指しています。
―― 「STRAYM」をどう思いますか。
施井泰平 僕は昔から応援しているんです。仲いいですよね。僕らはインフラを構築しているので「STRAYM」さんがブロックチェーンを導入したときに、一緒に連動すればより真正性の高いものを販売できるのかなと。僕は分割所有には未来があると思っていて、言いたいこといっぱいあるんですけど(笑)。例えばアーティストが2年間かけて作品を作るとなったときに、作る前にファンディングをすることができますよね。あと、美術館に作品を購入する予算がないときには、日本の50つの美術館が一緒にひとつの作品を購入して、巡回展をするみたいなこともできるじゃないですか。柔軟に考えるとこの仕組みっていろいろなことに使えて、特にこれからのファンディングを考える上では、すごく重要なんです。ちゃんと上手く導入してけば広がると思うので、、、技術力の向上や仕組みの見せ方によって、ますます広がっていくと思います。
―― 描かれている未来や、やってみようと思っていることは何ですか?
施井泰平 僕はアートというものは時代を超えていくものだと思っていて、その価値を保存するためにブロックチェーンが有効だと思っています。今、NFTのムーヴメントがきて、僕が思っていた以上に社会がそれを受け入れている。アートに対する考え方が、いろいろなことに適応されていくような感じがするんですよ。現在は本流のアートとして認められていないものでも、その情報を残していくことで将来的に価値がきちんと継承される。場所や時代を隔てたインフラを構築していくことは昔から考えていたことですが、その気持ちが一層強くなっていますね。今はアートと無縁なアフリカの村の奥地でもクリエイティヴを生み出したらこのインフラを使うというような、本当に全人類のためのインフラを作ることが目標です。
Profile
施井泰平 TAIHEI SHII
1977年生まれ、東京都出身。現代美術家、スタートバーン株式会社代表取締役。小中高校生時代をロサンゼルス、フィラデルフィアで過ごし、多摩美術大学絵画科油絵専攻に入学し2001年に卒業。アーティスト活動を行いながら、カリフォルニア州モントレーに滞在した後、2007年~2011年の間、東京芸術大学非常勤講師として勤務。2014年にスタートバーン株式会社を設立し、2016年に東京大学院修了。2018年「オープン・アート・コンソーシアム」共同設立、2021年「株式会社アートビート代表取締役」に就任。美術家として活動する際は、泰平名義となる。